「5」の改変バージョンです。保健室での話。
決定稿とあまり変わらないです。











 校舎の端にある保健室の中。
 現在その中では、白衣を着たエメロードがディオスににじり寄っている最中だった。

「さあご主人様。服を脱いでくださいませ!」
「脱ぐ必要はないだろ!?」
「そんな、いけません。傷の手当てをするというのに。体中に血が付いてしまいます」
「指先なのに? どんなアクロバティックな手当てをするつもりなんだよ!」
「……私も……脱いだ方が……いいと思う……」
「マリンまで乗っかるな!?」

 相変わらず無茶な要望をしてくる二人に、ディオスは額を押さえずにはいられない。
 なぜ、こんな状況になっているのか。
 発端は、ディオスが指の先を切ってしまったことにある。
 とはいっても、紙でスッと切ってしまった程度だ。
 しかし、それを見ていた神獣たちが血相を変えた。
 これまでにディオスに守られてきた神獣たちであるが、やはり主人である神獣使い《サマナー》の血を見て平気でいられなかったのだ。
 大したことはないと渋るディオスを引きずるような形で、保健室まで来たという経緯であった。
 ちなみに授業中だったこともあり、レイナとルヴィは教室に残っている。ディオスがいない間、授業内容を覚えておいてもらうためである。
 あの二人なら、ちゃんと授業を聞いてくれるだろう。
 その人選は間違いでなかったと思う。かといって、付き添い二人の人選が正しかったという自信はない。というか、本当は全員置いて来たかった。無理やり付いてきたのだ。
 じりじりと後退していたディオスであったが、ついに壁際まで追い詰められてしまった。
 しかし、ディオスを助けてくれる人間はいない。タイミング悪く、肝心の保健医が留守だったのだ。

『現在おやつタイムです。御用の方は職員室まで☆』という緩いメモが机に残されているのみであった。

 ちなみにエメロードが白衣を着ているのは、椅子にかけられていたのを勝手に拝借しているだけである。

「それ、勝手に着たらダメだろ。元に戻しておいた方がいいって」
「うふふ。これくらいの好奇心ならきっと許してくださいますって。メモを見る限り、心の広い先生みたいですし。それよりも、どうですかご主人様? 私の白衣姿、なかなか似合っていませんか?」

 胸元を強調しながら、エメロードは右を向き左を向き、様々なポーズを取る。

「……とても……似合ってると思う……。これで……眼鏡があれば……さらに完璧……」
「なるほど。貴重なご意見ありがとうございますマリンさん。今後の参考にさせていただきます」
「何の参考にするんだよ……」
「……ところで……そろそろ……治療した方が……いいと思う……」
「ああ、そうだな。早く教室に戻ろう――って、何をするんだマリンーッ!?」

 ディオスが絶叫したのは、マリンが怪我をした指をかぷっと口に咥えたからだった。

 いつも彼女の体は冷たいのに、口の中は温かい。
 指先にマリンの体温を感じた瞬間、彼女は指を優しく吸い始めた。

「あらあらあらあら!」

 その光景に、エメロードは目をキラッキラさせている。
 さすがに止めてくれるだろうと一瞬だけ期待したのだが、儚い希望だったことを知る。
 そうだ。エメロードはこういう性格だった。

「……んっ……血の味……」
「い、いや、無理するなって」
「……血も水分だから……大丈夫……」

 何てことだ。マリンが吸血クラゲになってしまった。
 マリンは吸うのはやめたが、まだディオスの指をペロペロとしている。

「あっ――もう我慢できません……! 私もご主人様をペロペロいたします! できれば全身を! さああちらのベッドへ!」
「全身はやめ――ぎゃあッ!?」

 便利能力、エメロードの蔦発動。
 たちまちディオスはベッドの上に強制移動。
 興奮したエメロードは、白衣姿のままディオスの上に乗ってくる。ついでにマリンも乗ってくる。

「さあご主人様。傷ついたお体を、私たちが存分に舌で癒やしてさしあげます」
「もう大丈夫だから! マリンのおかげで血は止まったみたいだし!」
「……今まで体に付いた傷も……この際ついでに……」
「そういうサービス精神は本当にいらないから!?」
「ディー君たち……何してんの……」

 いつの間に入ってきたのか。振り返るとファルルが立っていた。
 箱を抱えていることから察するに、何かの手伝いでここに来たのだろうが――。

「いや、あの、授業中にちょっと怪我を――」

 苦し紛れに指を見せるディオスだったが、完全に逆効果だった。

「ベッドが必要なほどの怪我には見えないんだけど?」

 ファルルの顔は笑っているが、こめかみがピクピクと動いている。

「……お兄ちゃん……」
「ご主人様……」

 少し眉を下げながら、ディオスの顔を見上げてくる二人。
 ディオスの心は二人と一つになった。誠に遺憾であるが。

「ああ、そうだな……。ここは……退散ッ!」

 そして三人は猛ダッシュで保健室から逃げ出すのだった。












というわけで、今回で没SSの放出は終了です。
少しでも楽しんでいただけたなら出した甲斐があります。
ここまで長い話は無理でも、今後も小ネタが浮かんだら500文字くらいのSSとしてこっそり掲載しようかなと考えております。
本編で出せなかった設定もありますので。
あまり期待はせず、のんびりとお待ちくだされば幸いです。

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2018.12.15