今回は前回の告知通り、没になったSSを公開です。
一応許可は取り済。

「何の没?」と思う方が多いと思うので簡単に説明を。
新刊発売の際、店舗特典としてSSが付いてる時があります。
とら○あなとか、メロンブ○クスとか、アニ○イトとかで付いてくるアレです。
(近隣にそういう店がないので、自分にとっては長らく無関係な世界だと思っておりました……)

大体2000文字前後なので、大きな山も谷もない、サクッと読めるものになってます。
日常を切り取ったものとしてお楽しみいただけたらと。










 壁と椅子を白色で統一されたカフェ。
 女性たちの談笑が絶えないお洒落な店内に、コーシカと彼女の神獣アガートはいた。
 星のように目を輝かせているコーシカの前には、小ぶりな二層のパンケーキがあった。
 パンケーキと皿にふんだんに振りかけられたシュガーは、まるで新雪のよう。
 たっぷりの生クリームが、二枚のパンケーキの間からはみ出ている。
 アクセントとして乗せられた鮮やかなミントは、まるで春の芽吹きを彷彿とさせる。
 この二層パンケーキは、カフェの看板メニューだ。

「はあぁ……素晴らしいです。芸術性さえ感じてしまいます……。見ているだけで幸せな気分になっちゃいますねえ……」

 コーシカはナイフとフォークを手にしたまま、うっとりと呟いた。
 その様子はまさに乙女そのもの。彼女が重大な責務を負った神獣使い《サマナー》だとは、この場の誰も想像できないだろう。

「……って、いつまでも眺めているばかりではいけませんね。はい、どうぞまんぷくちゃん」

 コーシカが上機嫌に、切り分けたパンケーキを頭上のアガートに運んだ、その時だった。
 入り口のドアが開き、新たな客が店内に入ってきた。
 一人の男と四人の少女という人目を引くその客に、コーシカは大いに見覚えがあった。
 見紛うことなどありえない。
 男なのに神獣使い《サマナー》になってしまったというディオスと、その神獣たちであった。

「ああああっ!?」

 コーシカはディオスを指さしながら、大声を上げつつ立ち上がった。
 ディオスを始め、店内にいた客たちは一斉に目を丸くするが――。

「にゅ!?」

 コーシカの行動に一番驚いたのは、彼女の頭の上に乗っていたアガートだった。
 アガートが口に入れたばかりのパンケーキがこぼれ落ちる。そしてコーシカの頭から顔にかけて、生クリームがドロリと垂れてしまったのだ。

「ひゃあっ!? まんぷくちゃん!?」
「え――。だ、大丈夫か?」

 ディオスは若干引きながらも、コーシカに近付くのだった。




 コーシカの向かいには、気まずそうなディオスと、嬉しそうなエメロードとマリンが座っている。そしてコーシカの横には、レイナとルヴィが座っていた。
 ディオスはコーシカが何も言っていないのに、なぜか同じテーブルに着いていたのだ。
 コーシカがあれだけ大きな声を出しておきながら、他人の振りをするのは忍びなかったのであろうが。
 レイナとルヴィがコーシカの隣に座っているのは、単に椅子の配置の関係である。

「うう……。髪がベタベタするです……」

 コーシカは前髪をいじりながら肩を落とす。
 店員がタオルを持ってきてくれて拭き取ったものの、コーシカの髪からはほのかに生クリームの良い匂いが漂っていた。

「コーちゃん、いきなり大きい声出すから、ルヴィマジでビクついたし」
「あなたたちのせいです……。私、言いましたよね? 無闇に人間形態でイチャつくのはやめるようにって……」
「イチャついてはいませんよ? 私たちはただ、ご主人様と一緒にパンケーキを食べたかっただけです」

 エメロードは悪びれもせず、ニコニコと微笑んだ。

「もう……! ああ言えばこう言うんですから」

 コーシカは憤りながらも、再びナイフとフォークを手に取る。そして食べそこねていたパンケーキを一口頬張った。
 瞬間、コーシカの目が大きく見開き、頬が桃色に染まった。

「ふわぁ……。これ、とても――」

 言いかけて、ディオスと神獣たちの視線があることを思い出したのか、「ん、ん」と誤魔化すように謎の声を発し、大げさに眉間に皺を刻んだ。だが、『とても美味しい物を食べた……!』という幸せオーラは滲み出ている。

「なぁ、コーシカ」
「……何ですか」

 コーシカがディオスと目を合わせずに答えた直後――。
 突然ディオスの指が、コーシカの口の横に触れた。

「なななな何するんですかあっ!?」

 コーシカは顔を真っ赤にしながら、ガタタッと椅子ごと後ろに下がった。
 当のディオスは、コーシカの反応にきょとんとしている。

「いや、口の横に生クリームが付いていたから……」
「だ、だったら教えてくれたら良いじゃないですか! いきなり触るなんてセクハラですよ!」
「そ、そうなのか? 別に下心とか何もないんだけど。子供の頃は妹にもこうやっていたし、逆に俺もしてもらっていたんだけど……」
「私は妹ではないです! あなたの身内と同じ扱いにしないでください!」

 ディオスの神獣たちは二人のやり取りを目を点にして見ていたのだが、やがて感心したような呆れたような、どちらともつかない息を吐いた。

「ご主人様って、もしかしてナチュラルにたらしなのですか……?」
「え? それはどういう意味?」

 エメロードに問うディオスの顔は、疑問に満ちあふれている。

「まったく……自覚……なし……」
「いやー。今のはコーちゃんでなくてもドキドキするっしょ……」
「わ、私は別に、ドキドキしたわけではっ!」
「でも、顔赤いよ?」

 レイナに冷静に指摘され、コーシカは「ううぅ……」と唸りながら、さらに顔を赤く染めて俯いた。

「ええと……? できれば俺にもわかるように説明を――」
「しませんっ!」

 絶叫するコーシカ。何とも言えない空気が広がる中、アガートだけがいつも通り、のほほんとしていたのだった。









「1巻なのでメインは神獣にしましょう」と言われて没になったSS。
個人的にコーシカは本編でももっと掘り下げて書いてみたかったのですけどね……。
ページ数の制約で無理でした。

そしてタイトルに『その1』とありますが、つまり――。
はい。まだあります。
次回以降も載せていきます。

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2018.11.22